萩原朔太郎「遺傳」
Nagakutusita
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人家は地面に
へたばつて
おほきな蜘蛛のやうに
眠つてゐる。
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さびしいまつ暗な自然の中で
動物は恐れにふるへ
なにかの夢魔におびやかされ
かなしく青ざめて吠えてゐます。
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のをあある
とをあある
やわあ
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もろこしの葉は
風に吹かれて
さわさわと
闇に鳴つてる。
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お聽き!
しづかにして
道路の向うで吠えてゐる
あれは犬の遠吠だよ。
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のをあある
とをあある
やわあ
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「犬は病んでゐるの?
お母あさん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのです。」
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遠くの空の
微光の方から
ふるへる物象のかげの方から
犬はかれらの敵を眺めた
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遺傳の 本能の
ふるいふるい記憶のはてに
あはれな先祖の
すがたをかんじた。
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犬のこころは
恐れに青ざめ
夜陰の道路に
ながく吠える。
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のをあある
とをあある
のをあある
やわああ
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「犬は病んでゐるの?
お母あさん。」
「いいえ子供
犬は飢ゑてゐるのですよ。」
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