生ひ立ち
NANIWANO
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私の上に降る雪は
真綿のやうでありました
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或る少年の声はか細く誰の耳にも届かなったが
活字は誰の目にも見えた
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インクになった声に目を通した詩人が言った
「君の言葉には力があるね」
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はじめて自分の言葉が他人に届いた少年は
唇を万年筆の先に重ねて
思いを青いインクに託した
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少年が言葉を紡げば皆が微笑む
当然だと詩人が背中を叩く
微笑む人の心は知らない少年
今日も詩集が印刷所で刷られる
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私の上に降る雪は
霙のやうでありました
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私の上に降る雪は
霰のやうに散りました
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或る少年は部屋にこもり詩を書いた
書いて書いて書いて書いて書きつづけた
やがて腱鞘炎になった
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動かない手に鞭打って少年は詩を書いた
詩人と編集が急かすので少年は口も耳も塞いでしまった
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やがて言いたいことがわからなくなった少年は
首筋に万年筆の先をあてて
一思いに青い薬品を飲み干した
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少年は涙を流して微笑む
どうしてだと詩人は悲しみにうなだれる
微笑む少年の心は知らない人々
今日も詩集が印刷所で刷られる
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私の上に降る雪は
雹であるかと思はれた
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました
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瞳を閉じて浅い呼吸をする少年
夭折の詩人の詩の走馬灯
浪漫と白昼夢の世界へ行きたいと切に願った
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私の上に降る雪は
いとしめやかになりました……
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少年の命は儚く尽きる
残念だと世間は目を伏せる
微笑む少年の遺影は見ない人々
一層輪転機が忙しく働く
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一層輪転機が忙しく働く
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