318525 / Archilochus Tokiensis
地方競馬場にて
跫音なんて難しい言葉は
鮎川の詩で初めて覚えたよ
ぼくには誰の遺言も託されていない
——そう気づいてしまってから
どの馬も嘘みたいにぴかぴかに
仕上がっている中央競馬には
足が向かなくなってしまったのだ
地方競馬のパドックに集まる
人々は誰もかれもひとりきり
それでもレース前は一斉に動き出す
——おおその跫音の群れよ!
やがて馬たちの蹄がダートを
叩きつける音もそれに加わり
砂煙とともに駆けぬけるのだ
鞍上の人よ
どうしてあなたは回ってくるのか
走ることは生きること
それがあなたの乗っている生き物だから
ゴール板の前で二頭が僅差
小さなモニターに集まる視線
いま・ここでだけ一番に大きいハナ差だ
——「アーモウコリャ三番ダヨ!」
こうして三百年の伝統に
従って負け馬に賭けたぼくは
跫音のなかからひとり抜けだす
鞍上の人よ
ぼくはあなたをふりかえらなかった
生きることは走ること
それがぼくらすべての始まりなのだから
さよなら
本命も穴も信ずるに足りない
ただ信じられるのは
真実生きている彼らの跫音だけだ
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